声に出して気持ちを探求:おうちでできるボイスワーク
声に出して気持ちを探求:おうちでできるボイスワーク
私たちは日々の生活の中で、様々な感情を抱いています。嬉しい、楽しいといったポジティブな感情から、怒り、悲しみ、不安、もやもやといったネガティブな感情まで、その種類は多岐にわたります。これらの感情は、時には言葉にするのが難しかったり、心の中に留め込んでしまいがちです。
おうちで簡単アートセラピーでは、絵や粘土、音楽といった創造的な活動を通して、自分の心と向き合う方法をご紹介しています。今回は、特別な道具もいらず、自宅で一人で気軽に取り組める「声」を使った心理ケアの方法、ボイスワークをご紹介します。
声は、私たちの内面と深く繋がっています。言葉として意味をなす声だけでなく、ため息、うめき声、笑い声、泣き声など、様々な非言語的な声には、その時の感情や身体の状態が反映されています。声を使ったワークは、これらの声に意識を向け、時には意図的に声を発することで、感情の解放や自己理解に繋がる可能性があります。
心理学的な観点では、声は感情や身体感覚と密接に関係していると考えられています。例えば、緊張している時には声が震えたり高くなったり、リラックスしている時には穏やかな声になったりします。声を使って感情を表現することは、単に「話す」こととは異なり、身体を使った自己表現の一種とも言えます。これにより、頭で考えるだけでなく、身体を通して感情を体験し、手放していくプロセスが促されることが期待できます。
おうちでできるボイスワークのやり方
ここでは、自宅で安全に、そして気軽に試せるボイスワークのステップをご紹介します。特別な発声練習や歌唱のスキルは必要ありません。大切なのは、「上手く声を出す」ことではなく、「自分の声に耳を傾け、表現してみる」ことです。
必要なもの:
- 静かで一人になれる場所(自宅の部屋など)
- 自分一人で過ごせる時間(最低10分程度)
- リラックスできる服装
準備:
- 場所の確保: 誰かに聞かれる心配がなく、安心して声を出せる場所を選びましょう。防音設備は必須ではありませんが、家族や近隣への配慮は必要に応じて行いましょう。もし大きな声を出すのが難しい場合は、小さな声や息だけの音でも十分効果があります。
- 時間の確保: 最低10分、できれば20分程度のまとまった時間を確保しましょう。
- リラックス: 楽な姿勢で座るか、立って、肩の力を抜きましょう。数回深呼吸をして、体の緊張をほぐします。目を閉じても、薄く開けていても構いません。
実践ステップ:
- 今の自分に耳を傾ける: 静かに座り、今の自分の心や体の状態に意識を向けます。どんな気持ちがするでしょうか? 体のどこかに違和感や緊張はありますか? 頭の中はどんな考えが巡っていますか? 感じたことをすぐに言葉にしようとせず、まずはそのまま受け止めます。
- 声にならない音を探る: 今感じている「言葉にならない」感情や感覚を、あえて「音」として出してみます。例えば、
- モヤモヤした気持ちを、「うー」や「あー」といった母音で、声のトーンや長さを変えながら出してみる。
- 重苦しい気持ちを、ため息のような声で出してみる。
- 少しイライラしているなら、低く短い音を繰り返してみる。
- ワクワクしているなら、弾むような音を出してみる。 声の大きさ、高さ、響きは問いません。自分の中から自然に出てくるような音を探してみましょう。どんな音が出ても「これでいい」と受け止めます。
- 言葉にして解放する(任意): 音を出すことに慣れてきたら、次に今の気持ちを「言葉」にしてみることに挑戦しても良いでしょう。誰かに聞かせる必要はありません。心の中で思っていることを、そのまま声に出してみます。
- 「あー、なんか疲れたな。」
- 「本当は、こうしたいと思っているんだ。」
- 「あの時、こう言いたかったんだ。」 頭に浮かんだことを、そのまま言葉に乗せて声に出してみます。感情が乗った言葉が出てくるかもしれません。
- 心地よい声を探す: 最後に、自分が心地よいと感じる声や音を探してみます。
- 好きな歌のフレーズを口ずさんでみる。
- 響きが心地よい母音(「あ」「お」など)を長く伸ばしてみる。
- 好きな詩や文章を、声に出して読んでみる。 心地よさを感じる声や音に集中することで、心が落ち着き、満たされる感覚が得られることがあります。
実践のコツと注意点:
- 判断しない: 出てくる声や音が「変だ」とか「下手だ」と判断せず、ただ「こんな声が出たんだな」と観察する姿勢が大切です。
- 無理をしない: 大きな声が出しにくい環境であれば、息だけの音やささやき声でも構いません。喉を痛めるような無理な発声は避けましょう。
- 安全な空間で: 物理的にも心理的にも安全だと感じられる場所で行いましょう。
- 記録してみる(任意): 余裕があれば、ワーク中に感じたことや出てきた声の様子を簡単にメモしておくと、後で振り返る際に役立つことがあります。録音機能を使うのも一つの方法ですが、ご自身の抵抗がない範囲で行ってください。
- 感情の波を受け止める: ワーク中に感情が溢れてくることがあるかもしれません。それは自然な反応です。安全な空間で感情を解放することを自分に許可してあげましょう。ただし、もし感情がコントロールできないほど強くなったり、 distressing (苦痛に感じる)になった場合は、すぐにワークを中断し、安全を確保してください。必要であれば、信頼できる友人や専門家(カウンセラーや心理士など)に相談することを検討してください。
期待できる心理的効果:
- 感情の解放: 心の中に溜まっていた感情を、声として外に出すことで解放し、ストレス軽減に繋がる可能性があります。
- 自己理解の深化: 自分の声やそこに乗る感情に気づくことで、今まで意識していなかった自分の内面に気づき、自己理解が深まることが期待できます。
- 身体との繋がり: 声を出すという身体的な行為を通して、心と身体の繋がりを感じ、自己肯定感や自己受容に繋がる可能性があります。
- リラクゼーション: 心地よい声や音に集中することで、リラックス効果が得られることがあります。
さらに深く学びたい場合は
ボイスワークは、声と心、身体の繋がりを探求する一つの方法です。もしこの経験を通してさらに深く学びたいと感じた場合は、心理学の授業で声や感情に関する研究について調べてみたり、ボイスセラピーや音楽療法、演劇療法などの分野について情報を集めてみるのも良いでしょう。専門家によるワークショップに参加する機会があれば、より深い学びが得られるかもしれません。
まとめ
今回ご紹介したボイスワークは、自宅で気軽に始められる自己探求と感情ケアの方法です。特別な準備もスキルも不要で、ただ自分の声に耳を傾け、そして声を出してみることから始まります。
心の中に言葉にならない感情や感覚があるとき、一人静かな時間を見つけて、あなたの声を自由に響かせてみませんか。声を通して新しい自分と出会い、心の詰まりが少しでも軽くなるかもしれません。どうぞ、ご自身のペースで試してみてください。