音を通して自分とつながる：おうちで始める環境音ジャーナリング
日常の音に耳を澄ませて、自分と向き合う時間を持つ
私たちは普段、様々な音に囲まれて生活しています。車の音、人々の話し声、家電の作動音、自然の音など、無数の音が耳に届いていますが、その一つ一つを意識して聞いていることは少ないかもしれません。
実は、これらの日常の音に意識的に耳を澄ませることは、心の状態に気づき、自己理解を深めるための一つの方法になり得ます。今回は、おうちで手軽にできる「環境音ジャーナリング」という方法をご紹介します。これは、聞こえてくる音に意識を向け、そこから生まれる自身の内面的な動き（思考、感情、連想など）を書き出すワークです。特別な道具やスキルは不要で、誰でもすぐに始めることができます。
環境音ジャーナリングとは？なぜ心のケアに繋がるのか？
環境音ジャーナリングは、文字通り「環境音」を「ジャーナリング（書き出し）」と組み合わせた方法です。
まずは、聞こえてくる音に意図的に注意を向けます。これは、普段の「聞く」とは少し異なります。音を「良い」「悪い」と判断したり、音の原因を探ったりするのではなく、ただその音が「聞こえている」という事実に意識を向けます。風の音、時計の秒針の音、遠くの話し声など、どんな音でも構いません。まるで初めてその音を聞いたかのように、新鮮な気持ちで耳を澄ませてみましょう。
次に、そうして音に意識を向けた時に、自分の心や体にどのような変化が起こるか、どのような思考や感情が湧き上がるか、どのようなイメージが浮かぶかなどを、自由に書き出していきます。
このプロセスがなぜ心理ケアに繋がるのでしょうか。
- 傾聴とマインドフルネス: 音に意識を向ける行為は、一種の傾聴であり、マインドフルネスの実践でもあります。音という「今ここ」に存在する対象に注意を集中することで、過去の後悔や未来への不安といった雑念から一時的に離れることができます。これにより、心のざわつきが落ち着き、リラックス効果が期待できます。また、普段は気づかない些細な音に気づくことは、五感を研ぎ澄ませ、周囲の世界との繋がりを感じる機会にもなります。
- ジャーナリングによる内省と整理: 音から連想される思考や感情を書き出す作業は、自身の内面を「見える化」するプロセスです。頭の中で漠然としていた気持ちや考えを言語化することで、客観的に捉え、整理することができます。書き出すこと自体が感情の解放に繋がり、気づいていなかった自身の本音やパターンに気づくきっかけになることもあります。
環境音に意識を向け、そこから広がる内面世界を探求することで、外の世界との繋がりを感じつつ、自分自身の心の状態を深く理解することに繋がるのです。
おうちで始める環境音ジャーナリングのやり方
必要なものは、ノートや紙、そして筆記用具だけです。静かに座って過ごせる時間と場所を用意しましょう。
準備するもの:
- ノートまたは紙
- ペンまたは鉛筆
- タイマー（スマートフォンのタイマー機能などでOK。任意）
- 静かに過ごせる場所
実践ステップ:
- 場所を選ぶ: 自宅の中で、比較的静かでリラックスできる場所を選びます。窓際など、外の音が聞こえやすい場所でも良いでしょう。
- 姿勢を整える: 椅子に座っても、床に座っても構いません。体が楽な姿勢で、少し背筋を伸ばして座りましょう。必要であれば、軽く目を閉じます。
- タイマーをセット（任意）: 初めは5分から10分程度でも十分です。慣れてきたら15分、20分と時間を延ばしても良いでしょう。時間を決めずに自由に行っても構いません。
- 音に耳を澄ませる: タイマーをスタートしたら、聞こえてくる音に意識を向けます。遠くの音、近くの音、小さな音、大きな音。音の種類を特定しようとするより、ただ「音がある」という感覚に注意を向けます。判断や評価は手放し、「聞こえてくる音を聞く」という体験そのものに集中します。
- 内面の動きに注意を向ける: 音を聞きながら、自分の心や体にどのような変化が起きているかにも注意を向けます。特定の音を聞いて、何かを思い出したり、特定の感情が湧いたり、体が反応したりするかもしれません。それらをただ観察します。
- 書き出す（ジャーナリング）: 設定した時間が終わるか、あるいは気が済んだら、聞こえてきた音、音を聞いている時に感じたこと、思考、感情、連想されたイメージ、体の感覚などを、思いつくままに自由に書き出します。文章でなくても、単語の羅列や箇条書きでも構いません。「〜という音が聞こえた。その音を聞いて、昔の夏休みを思い出した」「なんだか心が落ち着く」「少しざわついている感じがする」など、素直な内面の動きを記録します。
- 振り返る（任意）: 書き出した内容を静かに読み返してみます。そこに何か気づきや発見はあるでしょうか。特定の音に対する自分の反応のパターンが見えてくるかもしれません。
実践する上でのコツと期待できる効果
- 完璧を目指さない: 「上手に聞こう」「素晴らしい気づきを得よう」と気負う必要はありません。ただ音に耳を澄ませ、心が動いた通りに書き出すだけで十分です。何も感じなかったり、何も書くことがなかったりしても、それはそれで一つの体験です。
- 判断しない: 聞こえてくる音や、それに対する自分の内面の動きに、「良い」「悪い」といった判断を下さないことが大切です。ただ「あるがまま」を受け入れる練習になります。
- 短い時間からでも継続する: 毎日数分でも続けることで、音への感度が高まり、内面の変化にも気づきやすくなる可能性があります。
この環境音ジャーナリングを通して、以下のような効果が期待できるでしょう。
- 集中力と注意力の向上: 普段は聞き流してしまう音に意識を向ける訓練は、集中力や注意力を高めることにつながります。
- リラックス効果とストレス軽減: 音に集中することで、日常の悩みから意識をそらし、心の休息を得ることができます。また、書き出すことで感情のカタルシスが得られる可能性もあります。
- 自己理解の深化: 特定の音に対する自分の反応や、そこから湧き上がる思考・感情パターンに気づくことで、自分自身の理解が深まります。
- 五感の活性化と「今ここ」への意識: 音への注意は、他の感覚への気づきも促し、「今ここ」という瞬間に意識を向ける練習になります。
さらに深く探求するために
慣れてきたら、特定の種類の音（自然の音、街の音など）に焦点を当ててみたり、音を聞きながら感じたことを言葉だけでなく、色や形で表現してみたりするのも良いでしょう。また、読書などで傾聴やマインドフルネス、ジャーナリングに関する知識を深めることも、このワークへの理解を助けるかもしれません。
まとめ
「環境音ジャーナリング」は、日常の音という身近なツールを使って、手軽に始められる自己探求と心理ケアの方法です。特別な準備やスキルは必要ありません。静かな時間を見つけて、聞こえてくる音に優しく耳を澄ませてみてください。そして、そこから生まれる自身の内面のさざ波を、自由に書き出してみましょう。
音を通して、今まで気づかなかった新しい自分自身と出会えるかもしれません。今日からでも、ぜひおうちで試してみてください。