描いた絵に「物語」を添える:おうちストーリーテリング・アートセラピー
描いた絵に「物語」を添える:おうちストーリーテリング・アートセラピー
日常生活の中で、言葉にならない想いや、自分でも気づいていない心の動きを感じることはありませんか。そんな時、絵を描くことが心の探求の助けになることがあります。さらに、描いた絵に簡単な「物語」を添えることで、自己理解をより一層深めることができる方法をご紹介します。
これは「ストーリーテリング・アートセラピー」と呼ばれるアプローチを、ご自宅で手軽にできるようにアレンジしたものです。特別な絵の技術や専門知識は一切必要ありません。用意するのは、紙と、描くための簡単な道具だけです。
なぜ絵と物語が心の探求に役立つのか?
絵を描く行為は、言葉だけでは表現しにくい無意識の感情や思考を、形や色として視覚化する手段となります。一方、ストーリーテリング、つまり物語を語る、あるいは書き出す行為は、経験や感情を時系列や因果関係の中に位置づけ、意味を見出す認知的なプロセスです。
心理学の一分野であるナラティブセラピーでは、個人が自己の経験を物語として語り直すことで、問題の捉え方を変えたり、新たな視点を得たりすることが重要視されます。描画とストーリーテリングを組み合わせることで、視覚化された内面世界(絵)に、言葉による解釈や意味づけ(物語)を加えることができます。
これにより、描かれた絵が単なるイメージに留まらず、動的な内面のプロセスや、隠されたメッセージを持つ「物語」として立ち現れてくる可能性があります。絵に登場するキャラクターや状況、展開されるストーリーに、自分自身の感情、願望、葛藤、対人関係などが投影されることが考えられます。物語を客観的に眺めることで、自身の内面をより深く、多角的に理解する糸口を見つけられるかもしれません。
用意するもの
- 紙(ノート、スケッチブック、コピー用紙など、どんな紙でも構いません)
- 描画材(鉛筆、ボールペン、色鉛筆、クレヨン、サインペンなど、手軽に使えるもので結構です)
おうちストーリーテリング・アートセラピーのステップ
リラックスできる静かな時間と空間を確保することから始めましょう。音楽をかけたり、飲み物を用意したりして、心地よい環境を整えてください。
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自由に絵を描く(10分〜15分程度)
- 特にテーマは決めず、今の気持ちや、ふと心に浮かんだイメージを自由に紙に描いてみましょう。抽象的な形や線でも良いですし、具体的な人や物、風景を描いても構いません。
- 「上手く描かなければ」という考えは手放し、感じたままに手やペンを動かしてみることが大切です。色を使いたければ、自由に色を乗せてみてください。
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描いた絵を眺める(5分程度)
- 描き終わったら、一歩引いて描いた絵をじっくり眺めてみましょう。絵全体や、細部、使った色などに改めて目を向けます。
- 絵を見て最初に感じたこと、気づいたことなどを心の中で呟いてみても良いでしょう。
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絵から物語を紡ぐ(10分〜15分程度)
- 描いた絵の中の形や色、あるいは描いている時の気持ちから、何か「物語」が生まれてこないかを探ってみます。
- 例えば、絵の中に何か人や物に見える部分があれば、それは何に見えるか? どんなキャラクターか? どんな状況にいるか? どんなことを考えているか? と問いかけてみます。
- 絵全体に雰囲気があるなら、それはどんな場面だろう? そこでは何が起こっているだろう? と想像を膨らませます。
- 短い物語でも、単なる描写でも構いません。絵を見て心に浮かんだストーリーを、紙に書き出したり、心の中で語ったりしてみましょう。「むかしむかし…」のように始めても良いですし、「これは〇〇のお話です」のように始めても良いです。
- 物語が思いつかない場合は、絵にタイトルをつけたり、絵の中のキャラクター(に見えるもの)にセリフをつけてみるだけでも構いません。
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振り返る(5分程度)
- 描いた絵と、紡いだ物語を改めて見返してみましょう。
- 絵を描いている時、物語を考えている時、そして今、どんな気持ちがするでしょうか?
- 絵や物語の中に、自分自身や今の状況と重なる部分はありますか?
- 物語の結末を考えてみると、何か気づきがあるかもしれません。
実践する上でのコツと期待できる効果
- 「正解」はありません: 絵も物語も、自由に表現することが最も重要です。上手さや論理的な整合性は一切気にせず、感じたままに進めてください。
- 心に留まった部分に注目: 絵の中で特に気になる部分や、物語を紡ぐ中で自然と筆が進んだり、感情が動いたりした部分に注目してみましょう。そこに自己理解のヒントが隠されていることがあります。
- 定期的に行う: 一度きりではなく、定期的に(週に一度など)続けてみることで、心の変化や成長に気づきやすくなる可能性があります。
- 期待できる効果:
- 自己理解の深化: 絵と物語を通して、普段意識しない感情や思考、願望に気づくきっかけとなることが期待できます。
- 感情の整理と解放: 言葉にしづらい感情を絵と物語で表現することで、感情が整理されたり、カタルシス(浄化)効果が得られたりする可能性があります。
- 視点の転換: 自分の内面を物語として客観視することで、問題や状況に対する新たな視点を得られることがあります。
- 創造性の刺激: 自由に描いて物語を想像するプロセスは、創造性を刺激し、心の柔軟性を高めることにつながる可能性があります。
さらに深めたい場合
もしこの方法をさらに深く探求したい場合は、心理学やアートセラピーに関する書籍を読んだり、地域の講座やワークショップを探してみたりすることも一つの方法です。また、描いた絵や物語を信頼できるアートセラピストに見せることで、専門的な視点からのフィードバックや深い洞察が得られる可能性もあります。
終わりに
描いた絵に物語を添える「おうちストーリーテリング・アートセラピー」は、自分自身の心と向き合う穏やかで創造的な時間を提供してくれます。日々の忙しさの中で、少し立ち止まり、紙とペン、そしてあなた自身の内なる声に耳を傾けてみませんか。きっと、新しい発見があるはずです。