身近な紙で「今の自分」をカタチに:折る・丸める・重ねるおうちアート
身近な紙で「今の自分」をカタチに:折る・丸める・重ねるおうちアート
おうちで手軽にできる心理ケアとして、絵や粘土、音楽を使った方法をご紹介してまいりました。今回は、さらに身近な「紙」を使ったアートセラピーに焦点を当ててみましょう。絵を描いたり、粘土をこねたりするのに抵抗がある方でも、きっと気軽に試せる方法です。
なぜ紙で「カタチにする」ことが心理ケアに繋がるのか
私たちは普段、言葉で考えたり、感情を伝えたりすることが多いですが、言葉だけでは表現しきれない、漠然とした気持ちや感覚というものがあります。アートセラピーでは、色や形、音といった非言語的な手段を使って、内面にあるものを表現することを大切にします。
紙を「カタチにする」という行為は、この非言語的な表現の一つです。紙を折ったり、丸めたり、くしゃくしゃにしたり、重ねたり、つなげたり。こうした手を使った物理的な操作を通して、心の中にある抽象的な感覚や感情を、具体的な「形」として目の前に出現させることができます。
心理学的な観点からは、これは「外化(Externalization)」と呼ばれるプロセスと関連があると考えられます。内面に閉じ込められていた感情や思考を、物理的な形として外部に取り出すことで、それを客観的に眺めたり、距離を取って捉えたりすることが可能になります。これにより、自分自身の状態をより深く理解したり、感情を整理したりすることに繋がる可能性があります。
また、紙という素材そのものが持つ性質(柔らかさ、硬さ、軽さ、音、触感など)に触れることは、感覚を刺激し、「今ここ」に意識を向ける、いわゆるグラウンディングの効果も期待できます。手の動きに集中することで、頭の中でぐるぐる考えていたことから一時的に離れ、リラックス効果が得られることもあります。
必要なものと準備
このアートセラピーを始めるのに、特別なものは一切必要ありません。
- 紙: コピー用紙、新聞紙、雑誌の切り抜き、チラシ、包装紙、使わなくなったノートのページなど、どんな紙でも構いません。複数枚あると、重ねたりつなげたりするのに便利です。
- 場所: 少しの間、集中できる静かな場所を選びましょう。
- 時間: 5分でも10分でも構いません。リラックスして取り組める時間を見つけましょう。
ハサミやのり、テープなどを使っても良いですが、まずは紙だけで始めてみるのがおすすめです。手でちぎる、折る、丸めるといった操作だけでも十分に表現できます。
「今の自分」をカタチにするステップ
さあ、実際に紙を使って「今の自分」をカタチにしてみましょう。
- 静かな時間を作る: 携帯電話を置くなどして、少しの間、外部からの情報から離れられる環境を整えます。
- 紙を準備する: 手触りや色など、直感で「これを使いたいな」と感じる紙を選んでみましょう。複数枚用意するのも良いでしょう。
- 今の自分を感じる: 深呼吸を数回行い、ゆっくりと息を吐き出します。体や心の状態に意識を向けてみてください。「今、どんな気分かな?」「何を感じているかな?」「頭の中にどんなことが浮かんでいるかな?」
- 紙で「カタチにする」: 今感じていること、頭に浮かんだイメージ、漠然とした感覚などを、「紙でどんな風に表現できるかな?」と考えてみましょう。そして、考えすぎずに、紙に触れ、自由に手を動かしてみてください。
- 丸めてみようか?
- 細長く折ってみようか?
- くしゃくしゃにしてみようか?
- 小さくちぎってみようか?(破るのではなく、ちぎるイメージで)
- 重ねてみようか?
- 複数の紙をつなげてみようか?
- どんな形になるかな? 立体かな? 平面かな? 大切なのは、何か意味のあるものや「上手なもの」を作ろうとしないことです。ただひたすらに、感じるままに紙を操作してみてください。紙の音や手触りも感じてみましょう。
- 完成したカタチを眺める: 手を動かすのを止め、目の前にできた「カタチ」をじっくり眺めてみてください。
- どんな形に見えますか?
- どんな色に見えますか?(元の紙の色ではなく、カタチ全体として感じる色)
- どんな印象を受けますか?
- 最初に感じていた「今の自分」と比べて、何か気づくことはありますか? 無理に言葉にする必要はありませんが、もし何か言葉が浮かんだら、心の中で呟いたり、声に出してみたりしても良いでしょう。作ったカタチが、今のあなたの心の状態を映し出す鏡のように感じられるかもしれません。
- 片付ける: 満足したら、静かに作業を終えます。作ったカタチをどのようにするかは自由です。しばらく眺めておいたり、写真を撮っておいたり、役目を終えたと感じたら処分しても構いません。
実践する上でのコツと期待できる効果
- 完璧を目指さない: このワークに「正解」はありません。どんな形ができても大丈夫です。あなたの手から生まれたその形が、今のあなた自身の表現なのです。
- プロセスを楽しむ: 完成した形だけでなく、紙を触ったり、折ったり、丸めたりしている時間そのものを味わってみましょう。
- 色々な紙を試す: 新聞紙のザラザラした手触り、折り紙のツルツルした手触り、厚紙のしっかりした感じなど、紙の種類によって触感や扱いやすさが異なります。色々な紙を試してみるのも面白いかもしれません。
- 無理に解釈しない: 作ったカタチに「これはこういう意味だ」と無理に決めつけようとしないことが大切です。ただ「こういう形ができたな」「この形を見てこう感じるな」と、ありのままを受け止める姿勢でいましょう。
この紙を使ったアートセラピーを試すことで、以下のような効果が期待できます。
- 漠然とした感情や考えを「見える化」し、整理する手助けになる
- 言葉にしにくい感覚や感情を表現する手段が得られる
- 手作業に集中することで、心を落ち着け、リラックスできる
- 自分自身の内面を新たな視点から捉え直し、自己理解を深める
- 日常から離れ、創造的な活動に触れることで気分転換になる
まとめ
身近な紙を使い、折ったり、丸めたり、重ねたりして「今の自分」をカタチにするおうちアートは、絵を描くのが苦手な方でも、粘土を用意するのが面倒だと感じる方でも、誰でもすぐに始められる手軽な心理ケアの方法です。
紙という素材の感触を楽しみながら、自由に手を動かしているうちに、きっと心の中の何かをそっと外に出すことができるはずです。完成したカタチは、もしかしたら今のあなた自身からのメッセージかもしれません。
まずは、手元にある紙を一枚取って、気軽に始めてみませんか。