おうちでらくがきアート:無意識を引き出すスクリブルセラピー
おうちでらくがきアート:無意識を引き出すスクリブルセラピー
日常生活の中で、なんとなく紙に線を引いたり、ぐるぐると落書きをしたりした経験はございませんか?集中している時、考えている時、あるいは手持ち無沙汰な時、私たちの手は自然と動き出し、様々な線を描き出します。この「らくがき」のような行為が、実は私たちの心に穏やかな変化をもたらす可能性を秘めているとしたら、いかがでしょうか。
今回ご紹介するのは、この「スクリブル」と呼ばれる無意識的な線を活用した、自宅で手軽にできる心理ケア方法です。特別な道具や技術は一切不要で、紙とペンさえあれば今すぐにでも始められます。なぜただの落書きが心理ケアに繋がるのか、その基本的な考え方と具体的な実践方法をお伝えいたします。
スクリブルとは?なぜ心理ケアに繋がるのか
スクリブル(Scribble)とは、意図や目的を持たずに、ただ手を動かして描かれた線を指します。子供がお絵かきを始める初期段階で見られるような、自由で奔放な線が特徴です。アートセラピーの分野では、このスクリブルを自己表現や内面を探求する手法として用いることがあります。
なぜスクリブルが心理ケアに繋がるのでしょうか。人間の心には、意識できる部分だけでなく、無意識の領域が存在すると考えられています。普段言葉にしたり、明確なイメージとして捉えたりするのが難しい感情や思考、内的な状態は、しばしばこの無意識の領域にあります。
スクリブルを描く行為は、意識的なコントロールを手放し、無意識に手を委ねるプロセスです。これにより、頭で考えるのではなく、体が感じていることや、心の奥底にあるものが、線という形で表現されやすくなると考えられます。つまり、スクリブルは無意識の「声」を聞くための一つの手段となり得るのです。
また、手を動かして線を引くという単純な反復行為は、瞑想や他のマインドフルネスの実践と同様に、心を落ち着け、現在の瞬間に集中するのを助ける効果が期待できます。思考のループから抜け出し、ただ「描く」という行為そのものに没頭することで、脳がリフレッシュされ、心の重さが軽減される可能性があります。
スクリブルセラピーの準備と実践方法
それでは、スクリブルを使ったおうちアートセラピーを実践してみましょう。
準備するもの
- 紙:コピー用紙、ノート、不要になった裏紙など、どんな紙でも構いません。サイズも自由です。
- 描画材:鉛筆、ボールペン、サインペン、色鉛筆、クレヨンなど、身近にあるものをご利用ください。一本でも、複数色あっても構いません。
実践のステップ
- リラックスできる環境を作る: 静かで落ち着ける場所を選びましょう。座って机に向かっても良いですし、床に座っても構いません。深呼吸を数回行い、体の力を抜いてリラックスします。
- 手を動かし始める: 紙の中央や端など、どこから始めても構いません。何も深く考えず、「なんとなく」手や腕を動かし始めましょう。円を描く、ぐるぐる線を重ねる、ジグザグに動かす、線を引いては止めるなど、手の赴くままに線を引いていきます。
- 意識を手放す: 「何か意味のあるものを描こう」「上手く描こう」といった意識は手放してください。ただ、ひたすらに手を動かすことだけに集中します。音楽を聴きながら行っても良いかもしれません。描画材を変えたり、紙の上でペンを滑らせるスピードを変えたりするのも自由です。
- 描く時間を決める(任意): 5分、10分、15分など、あらかじめ描く時間を決めておくと、集中しやすくなる場合があります。タイマーなどを活用してみてください。
- 描くのをやめる: 時間が来たら、または「もう充分だ」と感じたら、描くのをやめます。
- 描かれたものを見る: 描かれたスクリブルを眺めてみましょう。どんな線が描かれていますか?密集していますか?広がっていますか?特定の色や形に目が留まりますか?何か特定のイメージが見えてくるかもしれませんし、単なる線の集まりに見えるかもしれません。どのような印象を持っても構いません。
- 感じたことを言葉にする(任意): 描いている最中や、描かれたものを見た時に感じたこと、気づいたことなどを、心の中で言葉にしてみる、または紙の隅に書き出してみるのも良いでしょう。「疲れているな」「なんだかもやもやする」「頭がスッキリした気がする」など、率直な気持ちを記録します。
- そのままにする: 描かれたスクリブルは、特にどうにかする必要はありません。そのまま保管しても良いですし、気が済んだら処分しても構いません。重要なのは、描くプロセスと、その時に自分が何を感じたかです。
実践のコツと期待できる効果
- 評価しない: 描いたスクリブルに「良い」「悪い」といった評価を下さないことが大切です。これは作品ではなく、その時の内面が線となって現れたものと考えましょう。
- プロセスを大切に: 出来上がった絵そのものよりも、描いている時の手の動き、体の感覚、心の状態に意識を向けることが重要です。
- 自由に試す: 使う紙や描画材を変えてみる、描く場所を変えてみるなど、色々と試して自分に合った方法を見つけてください。
- 休憩も大切に: もし描いている途中で嫌な気持ちになったり、集中が続かなくなったりした場合は、無理せず休憩するか、そこでやめても構いません。
スクリブルセラピーを実践することで、以下のような効果が期待できます。
- 思考の解放と整理: 頭の中でぐるぐる考え続けていることを一時的に手放し、思考を整理するきっかけになる可能性があります。
- ストレス軽減: 無心に手を動かす行為は、緊張を和らげ、リラックス効果をもたらすことが考えられます。
- 集中力向上: 一つの単純な行為に没頭することで、集中力を高める練習になります。
- 自己理解の促進: 描かれた線や、描いている時の感覚を通して、普段は気づきにくい自分の内側の状態に気づく手がかりを得られるかもしれません。
- 感情の可視化: 言葉にしづらい感情が、線の勢いや濃さ、形で表現され、自身の感情を客観的に捉える助けになる可能性があります。
バリエーション
慣れてきたら、いくつかのバリエーションを試してみるのも面白いでしょう。
- 利き手と反対の手で描く: いつもと違う感覚で描くことで、新たな気づきがあるかもしれません。
- 目を閉じて描く: 視覚情報に頼らず、体の感覚だけで線を追う体験ができます。
- 音楽を聴きながら描く: 音楽のリズムや雰囲気に合わせて手を動かすことで、より感覚的な表現に繋がる可能性があります。
終わりに
スクリブル(落書き)は、誰にでも簡単にできる、非常に身近な表現方法です。そこには「上手さ」や「正解」といった概念は存在しません。ただ、あなたの手が、あなたの心が、自然に描き出す線があるだけです。
日々のセルフケアや自己探求の一環として、ぜひこの「おうちでらくがきアート」を取り入れてみてください。ほんの数分でも、無心に線を引く時間を持つことが、心の穏やかさに繋がるかもしれません。あなたの内側から生まれる線を、どうぞ大切に眺めてみてください。