無意識からのメッセージ:左手で描くおうち自己探求アート
無意識からのメッセージ:左手で描くおうち自己探求アート
私たちは普段、何かを描いたり書いたりする時に、無意識のうちに利き手を使っています。利き手は熟練しているため、私たちは「上手く描こう」「思った通りの線を引こう」といった意識やコントロールを使いやすい傾向があります。
では、もしあなたが普段使わない方の手、例えば右手利きなら左手で絵を描いてみたらどうなるでしょうか? 最初はぎこちなく、線は不安定かもしれません。しかし、この「ぎこちなさ」や「コントロールできない感覚」こそが、普段の意識や慣れを手放し、内なる無意識に触れるための入り口となる可能性があるのです。
「左手(非利き手)での描画」は、アートセラピーや自己探求の手法として用いられることがあります。これは、私たちが普段使っている脳の機能と、非利き手を使う際に活性化される脳の機能の違いに着目したアプローチの一つと考えられます。左脳は論理や言語、分析的な思考を司ると言われ、右脳は感覚、直感、イメージ、非言語的な表現を司ると言われます(※)。利き手を使う際は左脳のコントロールが働きやすい一方、非利き手を使うことで右脳の働きが促され、普段は意識に上りにくい感覚や感情、イメージが表れやすくなる可能性があるのです。
(※脳の機能分担については研究が進んでおり、必ずしも単純な左右二分論だけでは説明できませんが、アートセラピーの実践においては一つの捉え方として有効な場合があります。)
この方法はおうちで、特別な道具がなくても手軽に始めることができます。自己理解を深めたい、自分の中に眠る新しい側面に気づきたい、そんな時に試してみてはいかがでしょうか。
おうちで左手描画に挑戦してみましょう
必要なものは、紙と描画材だけです。鉛筆、色鉛筆、クレヨン、マジック、絵の具など、手元にあるもので構いません。
必要なもの
- 紙(ノートやコピー用紙など、描きやすいもの)
- 描画材(鉛筆、色鉛筆、クレヨンなど、普段お使いのもので大丈夫です)
- リラックスできる時間と空間
やり方・ステップ
- 準備: 描画に集中できる、静かで落ち着いた環境を整えましょう。椅子に座っても、床に座っても、自分がリラックスできる姿勢で始めてください。肩や手の力を軽く抜いて、深呼吸を数回繰り返すと、心身がリラックスしやすくなります。
- テーマを決める(任意): 何を描くか、特定のテーマを決めても、決めなくても構いません。「今日の気持ち」「最近気になっていること」「好きな場所」「なりたい自分」など、心に浮かんだことをテーマにしても良いですし、特に何も決めずに自由に線や形を描き始めても良いでしょう。テーマを決める場合は、言葉で具体的に考えすぎず、ふわっとしたイメージや感覚として捉えるのがおすすめです。
- 左手で描く: 普段使っている手ではなく、利き手と逆の手(右手利きなら左手、左手利きなら右手)で描画材を持ち、紙の上に線や形を描き始めます。
- 上手く描こうと意識せず、手の動きに任せてみましょう。
- 線が震えたり、思った通りにならなかったりしても、そのまま受け入れてください。それが非利き手で描くことの面白さです。
- 頭で考えすぎず、描いている時の手の感覚や、紙の上に現れる線や形、色に意識を向けてみましょう。
- 感じたままに、自由に紙の上で手を動かしてみてください。
- 描いた絵を観察する: 描き終わったら、紙から手を離し、描かれたものをじっと見てみましょう。
- どんな線が引かれていますか? 強い線、弱い線、途切れた線、ぐるぐるした線など。
- どんな形や色が使われていますか? 特定の形や色が繰り返されていますか?
- 全体から受ける印象はどのようなものですか? 明るい、暗い、静か、動きがあるなど。
- 描かれている中に、何か気になるもの、目に留まるものはありますか?
- 感じたことを言葉にする(ジャーナリング): 描いた絵を見て感じたこと、気づいたこと、心に浮かんだ言葉やイメージを、絵の横や別のノートに書き出してみましょう。
- 「この線は、なんだか迷っている時の気持ちみたいだな」「この色は、落ち着かない感じがする」「この丸い形を見ていると、安心する気がする」など、絵があなたに語りかけてくるような感覚で言葉にしてみます。
- 絵を描いている最中に感じた体の感覚や気持ちも思い出して書き加えてみましょう。
- もし何か特定の形が描かれていたら、それはあなたにとって何を象徴しているか、考えてみても良いでしょう。
実践する上でのコツと注意点
- 「上手さ」は気にしない: これは美術の授業ではありません。絵の上手さは全く重要ではありません。プロセスと、そこから自分が何を感じるかに焦点を当てましょう。
- 判断せず、ただ観察する: 描かれたものに「良い・悪い」の判断を下さないでください。ただ、目の前に現れたものを好奇心を持って観察することが大切です。
- 短時間でもOK: 5分や10分など、短い時間でも十分な効果が期待できます。無理のない範囲で、継続的に行うことで、新たな気づきが得られる可能性もあります。
- プライベートな時間として楽しむ: この絵は誰かに見せる必要はありません。完全に個人的な、自分自身のための時間として楽しんでください。
期待できる心理的効果
- 新たな自己発見: 普段の思考パターンや固定観念から離れることで、自分自身の新たな側面や感情、考え方に気づくきっかけとなることが期待できます。
- 無意識へのアクセス: 非言語的な表現を通して、普段は意識の奥に隠れている感情や願望、葛藤などが表れやすくなる可能性があります。
- 創造性の刺激: 非利き手を使うという普段と違う行動が、脳に新しい刺激を与え、創造性を活性化させることが考えられます。
- リフレッシュ: 頭の中の考え事から離れて、手の動きや感覚に集中する時間は、一種の瞑想のような効果をもたらし、心身のリフレッシュに繋がる可能性があります。
バリエーション
- 特定の感情(喜び、悲しみ、怒りなど)をテーマに、その感情の色や形を左手で描いてみる。
- 過去の出来事や未来への希望など、時間的なテーマで描いてみる。
- 描いた絵を眺めながら、静かな音楽を聴いてみる。
結び
左手での描画は、ほんの少しの勇気と好奇心があれば、誰でもおうちで手軽に始められる自己探求の方法です。非利き手から生まれる、ちょっと不器用で、予想外の線や形の中に、普段のあなたが気づかない、大切な「無意識からのメッセージ」が隠されているかもしれません。
評価することなく、ただ「描く」という行為そのものと、そこから生まれるものを受け入れる時間を持つことで、あなたの内面に新たな光を当てることができるでしょう。ぜひ一度、利き手ではない手で描く自由な世界に足を踏み入れてみてください。